あるシニア犬のお話し

ある日、初めてのお客さまからお問い合わせのメールが入りました。
現在15歳半のワンちゃん(男の子)のお母さんからです。昨年口腔内腫瘍の手術をしたため、普通の食事が取れないこと、足腰が弱っていて一人では立てないが、外でしか用を足せないこと、今年に入って目と鼻に炎症がおきてステロイドや免疫抑制剤を服用しているため、年に一度の追加ワクチン摂取ができていないことなど、詳細に渡りお知らせいただきました。勿論、普段の介護のやり方についても書かれていました。
メールの最後に、「こんな状況でもシッティングをお願いできますか?」とありました。
どうしても外せないご予定が入ってしまったのでしょう。たったの1日ではありますが、様々な介助が必要となった愛犬に心を砕いているご様子に胸が熱くなりました。
私は獣医でも動物看護師でもありません。何らかの医療的処置が必要なのであればお断りするのですが、普段お家で行っている介護をすることに問題はありませんとお返事をしたところ、大変喜んでいただきました。
そして打合せを3日後に控えたある朝、飼い主様からキャンセルのご連絡が届きました。容態が急変し、早朝に息を引き取ったそうです。
大きな手術を乗り越えたものの、日毎に衰弱していく姿を見ていれば、相応の覚悟はされていたと思います。それでも、お母さんの手からミルクを飲み、介助が必要であっても自力で立ち上がり、歩こうとする姿に励まされ、希望を捨ててはいなかったことでしょう。ご家族の心情を思うとやりきれない気持ちになります。
結局、私は一度も会うことができませんでしたが、ご家族に見守られて旅立ったのですから、きっと安らかな最期であったと思います。
動物だって年を取れば介助・介護が必要になります。人間よりずっとずっと早くその日がやってきます。わたし自身、沢山の愛犬・愛猫を見送ってきました。その度に号泣し、ああしていれば、こうしていればという後悔も味わいました。悲しみの中にいる時は気づけないものですが、共に過ごした日々が何にも勝る喜びであったことに、心から感謝できる日が来るものです。